似非随想録

「幻によろしくな」

生贄だいすき

人生とは選択の連続だ。手垢にまみれた台詞であるが、しかし、だからこそそれはある程度の真実味も帯びる。 生きていると、知らず手に入れているものがある。身体。思想。関係。そして夢。ゆたかな人生というものに必要なそれらは、たいてい七色に輝いて綺麗…

ホネケーキ

塩とアジシオの違いについてぼんやり思いを馳せつつ散歩をしていた昼下がり。ふと目に入った看板に記された「ホネケーキ」なる単語が放つものものしさに私は思わず眉をひそめた。ホネケーキとはいったいなんであるか。私はそう考えるより先にズボンのポケッ…

スターお姉さん

過去に二年ほど種子島に住んでいたことがある。転勤族だった私はすでに様々な場所を点々としていたが、そんななかで小学二年生のころに東京から引っ越した先が、宇宙ロケットが飛ぶという種子島だったのだ。 島には老人が目立ち、子どもはとても少なかったよ…

トースト28号

近所に食パンが美味で評判のパン屋がある。私は、毎朝のトーストはそこの食パンでないともう食べる気も起きない。外はサクサク、なかはふわふわ。近ごろ都市部で流行しているオシャレ高級食パン店が提供するオノマトペなどそこの食パンは持ち合わせていない…

大工2.0

たとえばの話だ。大工が大工でなくなったらどうだろう。大工が大工でなくなるとき。それはさまざま考えられる。それは第九。あるいはdick。言葉遊びでしかない、ということでもいいじゃないか。そう、なんでもいいのだ。であるならば、ネオ大工ってのもあり…

余り物連休

「俺さあ、いま貯休してんだよね」こんなご時世であるから、普段はあまり気乗りしないことだけれども、ときどきこうして時流に乗るようなことをしてみたりもする。学生のころから使い続けている安物のノートパソコンのファンが少し心配になるぐらい大きく唸…

荒れるかぐや姫

生活において必要不可欠なことやものは数あれど、そのなかでもほとんど前提条件として要求されうるであろうことは『住む』ことである。であるからして、我々には四方を壁に囲まれた『箱』すなわち『家』あるいは『部屋』という場所がほとんど必須になってく…

台所スイーツ

「それでは次は2班のみなさんの発表です。よろしくお願いします」小学3年の初秋、灼熱の夏季休暇を終え学び舎へと舞い戻った我々2班は本番を迎えていた。本番とはつまり実践。実践とはつまり正念場。家庭科の授業内で厳かに執り行われた夏季休暇のグループ課…

誰得できるかな

こんなゲームをご存じだろうか。その名も『誰得できるかなゲーム』。必要な人数は3人以上。ルールは簡単。3人のうちのふたりが向かい合いじゃんけんをして先攻後攻を決める。残りの人間は審査員として彼らを見守る。後攻が「誰得できるかな?」と言ったあと…

悪人引越しサービス

終電の時間を裕に過ぎてなお続いた仕事を終えた日のこと。私は私以外誰もいない会社のソファに倒れるように沈み込み、さまざまな鳥たちがいよいよその耳障りな鳴き声とともに爽やかな朝を運んでくる直前の時間まで眠った。それから地下を騒々しく這う鉄の蛇…

カタログオタク

新しいものを買うことが苦手だ。物欲がないということではなく、少し前に話題だったミニマリストとかいう類の人種でもない。なにが苦手かというと、当然のことながらあらゆるものには一長一短というものがあり、つまり想像のとおり機能するようなものはほと…

ごはん問答

近所に行きつけの定食屋がある。長い年月を感じるのれんと店内に染み付いた油のにおい。白髪まじりの店主はいつも機嫌が悪そうな顔をして厨房に立っており、きっと近所の大学にかよう女学生であろう給仕はいつもニコニコ笑っている。オーガニックがどうのミ…

アブノーマル運動

「なんや変なことがしたいわあ」など思いながら、冬。起き抜けの朝は凍えるぐらい清潔で、せやけど夢とはものごっつ二律背反、ゆえに残酷、ゆえに清潔。なんや遣る瀬無いわぁ、とか。寝惚け眼でかつパジャマ、スリッパの片方は行方知れずのまま半分素足で立…

くもりのちまくら

金曜日の夜、労働を定時きっちりに終えて退社した。明日の朝はやくに予定があるわけでも別段なかったのだけれど、特に前向きな気分にもなれず、どこにも寄り道せずてくてく歩く。すっかり寒くなった夜のなか、一昨年に購入した黒色のダッフルコートを着込みh…

光に反応する焼豚

先ほど、本当にとんでもなくおいしい焼豚を食べた。 昼過ぎまで惰眠を貪った私は携帯電話と財布だけを持ち、なにも決めずに部屋を出た。のんべんだらりと最寄り駅まで向かい、いちばん安い切符を買って電車に乗った。電車のなかで30分ほどうたた寝をして、そ…